The Beatles「White Album」いつビートルズは仲違いしたのか。なぜ解散したのか。-377- 【Honey Pie】
【 Honey Pie 】 -10-
なぜジョージ・マーティンはセッションに戻ってきたのか
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【資料】
1968年10月4日
第3回録音
完成
この日、6時間におよぶ金管と木管、ストリングスのオーバー・ダブ
午後6時~9時の間に7人のミュージシャンがHoney Pieのオーバー・ダブ
次に彼は面白い仕掛けを施す。
Now she's hit the big time! のボーカル・ラインに大量にリミッターかけて
高域と低域をカットし、昔の蓄音機の音をスーパーインポーズして
すり切れた初期の78回転レコードのボーカルのような感じをだした
(The Complete Beatles Recording Sessions P.197)
:
この曲に一日はさんで木管楽器がオーバー・ダブされた。
これでこの曲は完成する。
3時間で7人の外部のミュージシャンが演奏した。
サックスが5人、クラリネットが2人だった。
ポールはNow she's hit the big time! のボーカル部分をアレンジした。
その上に昔の蓄音機の音をオーバー・ダビングした。
それはHoney Pieが意識した1920年代、ポールの好きなジャズの全盛期である
戦前に使われていたSP盤(78回転レコード)の音を再現したものだ。
ポールのその時代のジャズ曲へのこだわりが感じられる。SP盤の音を
再現するほど戦前のジャズはポールの愛すべき音楽でありルーツだった。
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【資料】
魅力的なメロディとジョージ・マーティンのスコアによる
心地よいサックスとクラリネットをフィーチャーした
1920年代のホット・ジャズ風のナンバーだ
(The Complete Beatles Recording Sessions P.196)
:
この曲はいいメロディと古き良きジャズのアレンジを持っている。
サックスとクラリネットでのアレンジはマーティンがした。
マーティンは休暇から帰ってきてすぐに
ジャズ曲の録音に立会いブラスのスコアを書いた。
White Albumのセッションも終わりに近づいていたこの時に
終了ぎりぎりでマーティンはセッションに復帰する。
マーティンがするべき仕事があると連絡がいったのだろう。
マーティンはこの曲のジャズ・アレンジをするために帰ってきた。
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【資料】
ブラスと木管楽器のスコアはジョージ・マーティンが手がけ、
ジョンは自作曲とはまったく正反対な曲だったにもかかわらず
喜んでエレクトリック・ギターを弾いたのだった
(ビートルズ全曲解説(ジョン・ロバートソン) P.142)
:
この曲はジャズだった。
マーティンが喜んで素晴らしいブラスと木管楽器のスコアを書いた。
ジョンはジャズは好きではなかった。
正反対な曲とはそういうことだろう。
ジョンはよくポールの音楽の趣味を批判するが
それはポールのルーツの一つであるジャズに対してである。
ジョンはジャズ曲であったにもかかわらず喜んでエレクトリック・ギターを
弾いた。ジョンもジャズであるこの曲の録音を楽しんでいる。
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【インタビュー】
Honey Pie
ジョン
笑う
それについては考えたくもない
(プレイ・ボーイ・インタビュー1980完全版 P.349)
:
ジョンはこの曲については真剣に受け止めていない。
インタビューでは考えたくないと切り捨てる。
ジョンにとってポールの趣味の一つであるジャズは
真剣に向き合う対象ではない。
でもポールが持ってきたジャズ曲であるこの曲で
嬉々としてリード・ギターを弾いた。
それは一つにはジョンが自分の好みではない曲を
バンドで演奏することに寛容だからだ。
ジョージが前アルバムまで持ってきていたインド系の曲に
ジョンは目新しいアレンジの素材以上の興味はなかったはずだ。
でもジョンはビートルズのアルバムに受け入れていた。
ジョンは寛容だったからだ。ジョンはポールにもジョージにも寛容だった。
そしてもう一つ。ポールとの信頼関係、音楽上のパートナーであることが
この時点でも全く揺らいでいなかったからだ。
それがこのジョンの素晴らしいジャズ風のリード・ギターを聞くとわかる。
ジョンとポールの信頼関係は揺らいではいない。
ジョンはバンドでの演奏を心から楽しんでいる。ポールの趣味と受け入れる
ジョン。バンドは安泰だ。それがこの1曲に集約され表現されている。